フロー体験(没頭)とは?フロー体験を促進するには?

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Summary

フロー体験(没頭)は、心理学の用語で、没頭、夢中、熱中といった自我を忘れて物事に集中することをいう。この体験は人間のウェルビーイングにも深い関係があることが知られており、加えて人間の高い創造性や生産性を発揮する方法の一つでもある。本稿ではフロー体験(没頭)の科学的位置づけ、フロー理論をおさらいした後、そこに至る条件を整理する。最後にこの状態の測定方法に関して参考となりそうな研究を紹介する。


フロー体験(没頭)とは?

フロー体験(没頭)は、ハンガリー出身で米国心理学者のミハイ・チクセントミハイ(Mihaly Csikszentmihalyi)によって命名された。「ゾーン、ピークエクスペリエンス、無我の境地、忘我状態とも呼ばれる。」(Wikipedia) 何かに夢中になって他のことを忘れる状態のことである。特別な訓練を受けなくても、ゲームに熱中したり、面白い小説を一気読みしてしまった経験がある人も多いだろう。スポーツ選手においてはゾーンに入るという言い方もする。フロー体験(没頭)は、特殊な人に発生するものではなく、誰にでも起こりうる体験と言える。

Flowという単語は、提唱者が研究のためにインタビューを行った際に、インタビューを受けた側の何人かが比喩として利用した単語である。


フロー体験(没頭)と他の感情との関係性

提唱者は本人の自己の技能水準(スキルレベル)観と成果達成に対して本人が感じる難易度(挑戦レベル)でフロー理論を考えた。例えば、技能水準が低く、難易度も低い場合には無感動という状態になる。難易度が低くても技能水準が高ければ、人はリラックスするであろう。反対に技能水準が低く、難易度が高ければ不安になる。難易度と技能水準の両方が高ければフロー体験(没頭)が発生する。この考え方は目標設定理論とも相似している。


フロー体験(没頭)の中身

提唱者はフロー体験の構成要素として以下の内容を挙げている。

  • 専念と集中: 他のことが気にならない。

  • 自己認識感覚の低下: 自分のことも気にならない。

  • 活動と意識の融合: 思ったことが即座に実行できる。

  • 状況や活動を自己制御感覚: 自分でコントロールしている感覚を持つ。自分の行動に対して結果が自分の思い通りになる。

  • 時間感覚のゆがみ: 時間を忘れる。

  • 内的報酬: 活動に本質的な価値を感じる。或いは活動自体が非常に好きであり面白い。


フロー体験(没頭)の効果

他のことを考えていると幸福感に悪影響がある

集中は創造性や生産性に好影響があるという研究結果の一方で、今やっていること以外のことを考えていると幸福感に悪影響があるとする研究結果もある。
ハーバード大学の心理学者マシュー(Matthew A. Killingsworth)とダニエル(Daniel T. Gilbert)はiPhoneのアプリ「trackyourhappiness.org」を用いて調査を行った。このアプリは日中、定期的に質問を送り、利用者が回答するものである。質問は以下の3つである。

  • 今現在どれくらい幸せか?(1-100までで評価)

  • 今現在何をしているか?(22の活動から選択)

  • 今現在していることと別の何かについて考えているか?
    「いいえ」「はい、別の楽しいことを考えている」「はい、別の不愉快なことを考えている」「はい、別のよくも悪くもないことを考えている」の中から選択

この調査結果の内、2250のアメリカ人の回答を分析した結果、以下のことが分かった。

  • 1日のうち平均46.5%もの時間を、今している以外のことを考えている。

  • その時点での活動の種類ではなく、他のことを考えているかが幸福感の低さに関係している。参加者が行っていた活動は彼らの幸福感に4.6%くらいしか関連がなかったのに対し、他のことを考えていたかどうかは10.8%も関連していた。

  • 結論として、幸福感の低さが他のことを考えさせるのではなく、他のことを考えていると不幸せになると言える。

trackyourhappiness.orgについては以下の記事が詳しい。


フロー体験(没頭)を促進するには?

フロー体験(没頭)の条件とは?

前述のフロー体験(没頭)の中身を基に、その条件を以下に整理する。

  1. 行動と成果の因果関係明確化:

    各行動とその想定成果が本人に明確に意識されていること。ゲームであればこれから行う一手とその結果が指し手に明確になっていること。プログラミングであれば、機能とその実装方法を本人が理解していること。これは目標設定理論にも通じる。

  2. 意識と行動の融合:

    統制感、自分がコントロールしている感覚を生み出すために意識したことが即時実行できる必要がある。

  3. 成果確認の即時性:

    行なったことに対して即座にフィードバックが掛かる。上記のように目論見を明確にして実際に行動を起こした結果が直ぐに分かることが望ましい。これも目標設定理論に通じる。ゲームであれば努力の結果としてパラメータが増加したことが直ぐに分かる事、プログラミングでは作成したコードを即座に実行できる環境があることである。

  4. 難易度と自己評価の均衡:

    難易度が高すぎたり、低すぎたり、自分の能力に自信(自己効力感)がありすぎたり、なさすぎたりすればフロー体験(没頭)は発生しにくい。丁度良い難易度が重要である。これも目標設定理論に通じる。失敗に対する心配もフロー体験(没頭)の障害となる。プレイヤが「無理ゲー」と思ってしまうと、そのゲームに没頭するのは難しい。

  5. 活動への嗜好性、充足感、満足感:

    活動そのものが好きであったり、そこから充足感、満足感が得られたり、或いは大きな意義を見出している方がフロー体験(没頭)状態になりやすい。

  6. 注意散漫の原因から退避:

    集中するに当たって邪魔になる要素を取り除く。インターネットもスマートフォンも注意を削ごうと意図されて設計されているため、これらを環境から取り除く。著名なWeblogソフトウェアは、weblogの作者に対して「執筆モード」を用意している。「執筆モード」の画面では、執筆に不必要なアイコンやボタンなどの要素が取り除かれ、注意を削がれないようにしている。これも注意散漫となる原因からの退避の好例である。

  7. 自意識の喪失/時間間隔の喪失:

    人間は多くの場合、多かれ少なかれ他社の視線を意識しているものであるが、フロー体験(没頭)状態にあっては、その意識が消失することが報告されている。但し、これは結果であって要因ではないかもしれない。同様に、フロー体験(没頭)中には時間が短く感じられる。これも結果であって要因ではないのであろう。


Gamification

フロー体験(没頭)を促進する方法論としてゲームが考えられる。ゲームについては別のページに記載したので、そちらを参考にしてほしい。


フロー体験(没頭) の測定方法

心理学的にフロー体験(没頭)を調査する方法として、質問紙調査、EMS(Experience Sampling Method, 経験抽出法)がある。琉球大学のWebサイトに授業用スポーツ・フロー尺度の例が掲載されている。これらの方法はいずれも事後に経験を尋ねるものであり、実時間で対象者のフロー体験(没頭)の度合いを測定するものではない。フロー体験(没頭)を直接計測するものではないが、集中度を計測研究として当プロジェクトから以下の研究を紹介する。


脳波を用いた教材動的制御 戸辺研

本研究では、オンライン学習を想定して、脳波、視線、体動といった情報を取得し、それを基に集中度を推定する。

システムは、受講者の集中度と理解度に基づいて、教材間の連携方法と教材内の小単位(ユニット)を制御する。教材はユニットという単位に区切られ、ユニットは受講者の集中度と理解度に依って分岐点Dで分離し、統合点Mでの流れがまとまる。

脈波と体動情報を用いた集中状態推定 ロペズ研

本研究では、耳たぶに装着する脈拍センサからの脈拍変動と、腕に装着する9軸センサ(加速度、地磁気、角速度)からの体動情報を元に、「集中」「非集中」「雑談」「勉学会話」「遷移」の5つの状態を推定する。推定精度76%。

言語別脳血流ネットワーク構造の解析 栗原研

本研究では、脳波計から取得したデータを基に、言語の習熟度を推定する。本稿の主題である没頭・集中とは多少異なるが、参考のために掲載する。

スポーツ選手のメンタル管理 ロペズ研

本研究では、ウェアラブル心拍系からの値を基に自律神経系活動評価指標である LF/HF をスマートフォンで解析し、緊張度とリラックス度を算出するものである。結果として、緊張感の中の程よいリラックス感が競技結果に良い影響を与えることが分かった。

Well-Being Glossary Index


ユーザの行動を促進する方法とは? 動機づけ、行動変容及びその促進方法
最終報告書