睡眠の仕組みとは?その促進方法と測定方法、システム化に向けた調査

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本用語集は、私家版として位置づけられたものであり、 従って、当学、或いは当プロジェクトの見解を代表するものではありません。 内容については正確を期しておりますが、 読者の方が本用語集を元に行った判断、行動についての責任を負うことはできません。 本用語集には科学論文のような厳密性もありません。 査読も受けていません。 誤解、思い違い等、多々あるものと推測されます。 内容の真偽については読者の方が各自ご考察をお願いします。


Summary

本稿ではまず睡眠の仕組みとして、レム睡眠・ノンレム睡眠の区分し、それぞれの特徴を列挙する。また、睡眠には疲労回復機能があり、成長ホルモンの役割を概説する。睡眠については未だに解明されていないことも多く、短眠者の例を紹介する。睡眠促進の実例として、アプリケーションの分類について触れた後、実例を紹介する。睡眠の測定方法としては、PSG及び脳波、脈波、その他の生体情報を活用した睡眠状態推定方法をまとめた。


睡眠の仕組みとは?

REM睡眠・non-REM睡眠(徐波睡眠)

睡眠とは意識を喪失する生理的な状態である。但し、刺激によって意識を取り戻すことができる(Wikipedia)。睡眠は、その状態中の急速眼球運動(REM: Rapid Eye Movement)の有無によってREM睡眠、non-REM睡眠に分けられ、non-REM睡眠は更に4段階に分ける考えが一般的である。

レム睡眠
  • 浅い眠り
  • 身体は骨格筋が弛緩して休息状態にあるが、脳が活動して覚醒状態にある
  • 脳波は 4 Hz から 7 Hz のΘ(シータ)波が優勢
  • 夢を見る
  • 新生児期に多く睡眠時間のおよそ半分、大人では睡眠時間の約20 – 25%
  • 入眠後は直ぐにこの段階に至らず、ノンレム睡眠段階を経て、この段階に移行する。
ノンレム睡眠
(徐波睡眠)
ステージI
(N1)
  • ステージIIIとIVの睡眠を徐波睡眠という。徐波はδ(デルタ)波を意味する。
  • ステージIV(N4)ではδ(デルタ)波が50%以上。
  • 成長ホルモンの分泌や記憶の定着,脳内に蓄積した代謝物の除去
  • 交感神経が休息、心拍数、呼吸数の減少、血圧の低下
  • 入眠後、直ぐに移行する段階
ステージII
(N2)
ステージIII
(N3)
ステージIV
(N4)


左の図のように睡眠の各段階の遷移を時間軸に沿って表したものを睡眠経過図(ヒプノグラム)と呼ぶ。下記の例では横軸が時間で縦軸が睡眠の各段階を意味している。横軸の一番上は覚醒状態を意味し、下に行けば行くほど深い睡眠段階を意味している。

医療における睡眠経過図は PSG (Polysomnography, 終夜睡眠ポリグラフ検査)の検査結果を利用する。PSGについては、睡眠の測定の章で紹介する

下記の文献に、REM睡眠とNon-REM睡眠の役割について詳しく説明されている。

  • 「レム睡眠のメカニズムと生理的意義」 髙木 眞莉奈 筑波大学, 2017. レム睡眠とノンレム睡眠の関係について詳述あり。レム睡眠の役割は、レム睡眠時の徐波(δ波、θ波)の促進と、合わせてレム睡眠中に海馬でθ波が優勢になることから何らかの記憶形成と関りがあると結論付けている。


疲労回復

睡眠の機能を考えると疲労回復が挙げられる。本節では、睡眠と疲労回復について考察する。

成長ホルモンとIGF-1

睡眠中の疲労回復に大きな影響を与えているのが、成長ホルモンである。成長ホルモンは単に「成長」を促進させるだけでなく、「細胞の修復」や「疲労回復」に役立っている。成長ホルモン(GH)は各器官に直接作用する場合と、インスリン様成長因子-1(IGF-1)を介して間接的に作用する場合がある。

睡眠と成長ホルモン分泌は深く関連しており、睡眠中の成長ホルモン分泌は年齢、性差の影響を受けるが、若年男性では1日の成長ホルモン分泌量のうち約60〜70%、若年女性では5割未満が睡眠中に分泌される。特に睡眠開始後の徐波睡眠の出現と深く関連している。

但し、夜勤者の成長ホルモン分泌は、日勤者と比べて、睡眠中は少なく、日中は多いことが報告されており、単純に睡眠時間の長さや入眠時間の制御でホルモン分泌が促進されるわけではないようである。


眠らない人

短眠(ショートスリーパー)、アル・ハーピン氏

一般的に生物にとって睡眠は、栄養補給よりも重要と言われる。ネズミを使った動物実験では、睡眠を遮断された個体は1~2週間程度で死に至る。この期間は食物の遮断よりも短い。

ところが、睡眠時間が極度に短い者がいることが報告されている。短眠とは、睡眠時間が短くても、特段の障害が発生しない人々である。生活に不都合がない点で、不眠症とは異なる。Wikipediaには、短眠の例として、武井壮、澤井健一、エジソン、森鷗外が紹介されている。更に全く睡眠をとらないというアル・ハーピンという人物が記録に残っている。アル・ハーピンは健康長寿で94歳まで生き、死因は睡眠不足ではないとのことである。


睡眠を促進するには?

睡眠促進アプリケーションには様々なものがある。ここでは対象者との遣り取りに基づいた分類とシステムの形状に基づいた分類を行う。対象者との遣り取りに基づいた分類は、一方向型、モニタリング型、センサによる状態推定に基づき睡眠促進を行う個別適合型の3つに分けた。形状に基づいた分類では、ハードウェアの形状を基に分類を行った。

アプリケーション類型

  • 対象者との遣り取りに基づいた類型
    • 一方向型:
      一方的に睡眠促進をおこなうもの。大多数のアプリケーションはこの類型に含まれる。睡眠促進の音楽や映像を流すものが代表的である。殆どのアプリケーションでは、効果について科学的背景を持たない。
    • 睡眠計:
      睡眠状態を測定し表示するもの。体に装着、或いは外部に設置したセンサから、心拍、体動、脳波、呼吸などから睡眠状態を推定する。この装置単体で睡眠促進を行う機能はないので、睡眠促進アプリケーションとは言えないが、重なるところも多いので便宜的に記載した。どのデータから睡眠状態を推定しているかは公表されているが、医学的検査法であるPSGとの比較などの精度情報は公表されていない。
    • 個別適合型:
      対象者の状態を推定し、促進対応を変化させるもの。前述の通り心拍、体動、脳波、呼吸等のデータをセンサから取得し、対象者に対する促進内容を変化させることができる。


ハードウェアの形状に基づく類型
  • 腕時計型
  • マット型
  • 枕型
  • アイマスク型
  • ヘアバンド型
  • その他

アプリケーション実例

下記にアプリケーション例を列挙した。尚、本稿は特定個人のある時点でのアプリケーション適用の是非を論じたり、個々のアプリケーションを推奨するものではない。個人へのアプリケーション適用は専門家の判断を仰ぐようお願いしたい。


睡眠状態の測定/評価方法

PSG(Polysomnography, 終夜睡眠ポリグラフ検査)

医学分野での睡眠段階測定にはPSG(Polysomnography, 終夜睡眠ポリグラフ検査)が使われる。

e-ヘルスネット > 情報提供 > 休養・こころの健康 > 健やかな睡眠と休養 > 眠りのメカニズム 厚生労働省

脳波、顎筋電図、眼球運動、呼吸運動、心電図などを終夜にわたり同時に記録する検査。PSGは比較的大掛かりな装置が必要で、尚且つ体に多数のセンサを装着する必要があるため、対象者の負担は大きい。PSGの標準的な検査手技と睡眠段階判定には、 1968 年 Rechtscaffen と Kalesにより標準化され広く普及していたR&K法を用いる。詳細な解説については下記の文献に詳しい。


生体情報

PSGを用いたR&K法は世界標準となっているが、機器が高額且つ大規模であり医療機関や研究所以外の用途に適さないこと、顔面にセンサを張り付ける拘束感があり、それ自体が睡眠を阻害しかねないことが課題である。そこで、より簡易な方法で、精度の高い推定方法が提案されている。

脳波

前述の通り、睡眠の初期段階ではα波が減少しΘ波が増加する。ノンレム睡眠のより深い段階ではδ波が出現する。またレム睡眠の場合にはΘ波が増加する。睡眠の初期段階でもレム睡眠の場合にもΘ波が増加するため、単純に脳波だけで睡眠段階を推定するのは精度の面で難しいと考えられている。その為、脳波を利用する場合でも他の指標と組み合わせて使う場合が多いようである。

下記の資料に睡眠ステージと脳波の変化が簡潔にまとめられている。加えて、脳波からのデータを活用するアプリケーション例として Phillips社 SmartSleep を紹介する。


心拍/脈波

心拍数はノンレム睡眠時に減少し、覚醒やレム睡眠時に増加する。睡眠は脳の働きに依るものであるが、自律神経系にも大きく影響している。但し、心拍だけであれば、R&K法で定義される全てのステージを判定するのは難しいようである。下記に心拍を用いて睡眠段階を判定する研究例を紹介する。また、ハードウェアとして心拍を計測する方法の参考として、Apple Watchの記事を紹介する。


当プロジェクトの研究。ベッドマットレスの下に敷くセンサで無拘束で睡眠中の脈波、呼吸、いびき、体動を計測し、一晩の睡眠段階の推移を推定する。また、睡眠中の呼吸停止の頻度を求めることも可能。

当プロジェクトの研究。心拍と加速度を用いて、入眠と覚醒時間の正確且つ容易な推定方法を提案。入眠のタイミングを±3分、覚醒のタイミングを±4分で検出。


体動と呼吸

体動と呼吸によっても睡眠段階を推定することができる。詳細は下記の文献に詳しい。


Well-Being Glossary Index


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