リラックスとは?その測定方法と促進方法、システム化に向けた調査

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本用語集は、私家版として位置づけられたものであり、 従って、当学、或いは当プロジェクトの見解を代表するものではありません。 内容については正確を期しておりますが、 読者の方が本用語集を元に行った判断、行動についての責任を負うことはできません。 本用語集には科学論文のような厳密性もありません。 査読も受けていません。 誤解、思い違い等、多々あるものと推測されます。 内容の真偽については読者の方が各自ご考察をお願いします。


Summary

本稿では、まずリラックス状態の基礎的概念として、緊張状態と快不快ストレスを考察し、続いて交感神経と副交感神経の働きに注目した医学的定義を述べる。リラックス状態を促進方法としては、最初に日常生活の中で個人が取り組める活動内容を紹介した後、心理学的なリラクゼーション手法を要約する。リラックス促進アプリケーションの項では、ある大学研究室のアプリケーション事例を紹介する。リラックス状態の測定及び評価方法の章では、設計の留意点に簡単に触れた後、主観法、唾液アミラーゼ法、生体情報を活用する方法を紹介する。


リラックス状態とは?

ストレス、リラックス、フロー(没頭)

リラックス状態とは、精神的に低緊張な状態である。この状態では、怒り・不安・恐怖から解放されている(Wikipedia)。リラックス状態が低緊張状態だとすると、緊張状態を考えてみることも参考になる。緊張状態の内、不快なものであり生物の適応力を最終的には下げてしまい障害の原因となり得るものをストレス状態(当サイト解説記事)、逆に好きなことに打ち込み集中力が高まっている状態をフロー(没頭)状態(当サイト解説記事)と呼ぶ。


緊張状態 低緊張状態
障害の原因 没頭状態 リラックス状態

ストレス状態(当サイト解説記事) or 不快ストレス

フロー(没頭)状態(当サイト解説記事) or 快ストレス


医学的リラックスの定義: 交感神経 vs 副交感神経

医学的には、リラックス状態は副交感神経の働きが活発になっている状態である。人間の神経は、外部環境や自身の身体的状況を認識し筋肉に指令を出す「知覚・運動神経」と、私達の意思とは独立して生命機能を司る自律神経に分けることができる。例えば、食べ物を消化することは我々が意識することなく、胃が動いて行われる。他にも呼吸や発汗も自律神経の働きである。自律神経は更に、交感神経と副交感神経に分類される。交感神経は、我々が起床した際に活性化する。目を大きく見開き、血圧が上がり、速く呼吸できるようになる。逆に入眠の際には、目は閉じられ、呼吸は深く遅く、心臓はゆっくり動く。交感神経と副交感神経は排他的に活性化し、同時に活性化することはないとする文献が多い。(※但し、排他的に動作する詳しい仕組みを解説した文献は見つけられなかった。)


  • 神経

    • 知覚・運動神経

    • 自律神経

      • 交感神経・・・起きている時・緊張している時・闘争あるいは逃走

      • 副交感神経・・・寝ている時・リラックスしている時・休養と栄養補給


交感神経と副交感神経のこうした働きは、原始時代に人間が生物としての危機に陥った際に、そこから脱出するための働きに由来すると考えられている。つまり、例えば登山をしていて熊に遭遇した場合、闘うか逃げるかを選択する必要がある。その時に身体の調整を行うのが交感神経であるというわけである。一旦、危機が去れば休養と栄養補給が重要となり、これを司るのが副交感神経である。

交感神経・副交感神経の説明は下記の記事に詳しく記載されている。


リラックス状態を促進するには?

前述の通り、リラックス状態とは即ち副交感神経を活性化させた状態である。それでは副交感神経を活性化させる方法は何であろうか。下記にその例を示す。但し、元資料については十分気を使ったつもりであるが、全ての方法論に対して理論的な背景の有無を確認していないことに留意願いたい。また、本稿はリラックス方法を推奨するものではなく、個々人に適切なリラックス法の選択は専門家の意見を参照してほしい。


リラックス状態を促進する行動例

【出典】 医療法人社団 小白川至誠堂病院

  • 大きく息を吸い、ゆっくり息を吐く腹式呼吸
  • 水を飲む
  • 朝に日光を浴びる
  • 散歩
  • 軽いストレッチ
  • ヨガ
  • アロマ
  • 入浴等で体を暖める
  • 適度な睡眠
  • 音楽を聴く
  • 趣味を持つ
  • ペットを飼う
  • のんびり生活する
  • 笑い

【出典】 班目健夫 青山・まだらめクリニック院長

  • 湯たんぽで体を温める。順序: 1.腹部、2.太もも全面、3.臀部、4.二の腕
  • 蒸しタオルで目を温める
  • 体が温まる食物を摂る
  • 早寝早起きをする
  • 朝食は少しでも摂る
  • デスクワークの場合、その場で足踏み
  • 手首そらし
  • 腸揉み
  • 湯船にゆっくりつかる
  • 腰枕
  • よく笑いよく泣く

【出典】 なんばくろとびハートクリニック

  • ヨガや呼吸法などで深呼吸
  • 首をマッサージ
  • 深呼吸での吸気時に息をとめた状態でお腹を圧迫
  • 運動習慣。
    運動は交感神経を活性化させるが、運動後の心拍数を元に戻すのは副交感神経の役割。普段よく運動をする人では心拍数はすぐ元に戻るが、普段運動しない人では運動後にもいつまでも脈が高いままである。

【出典】 鶴巻温泉病院 病院長 鈴木 龍太

  • 38度くらいのお絞りをまぶたの上や首筋に当てる
  • 目玉を強く押す
  • 首の付け根をこする


心理学的リラクセーション技法

Wikipediaには下記の心理学的リラクセーション技法が紹介されている。リラクセーション技法は、リラックス状態を意図的に作り出す方法である。いずれも、効果が充分論証されている。

リラクセーション技法の内、幾つかを下記に紹介する。繰り返しになるが、本稿は技法を推奨するものではなく、ある時点での個々人への応用の是非は専門家の指導を受けてほしい。


自律訓練法

自己催眠によるリラクセーション技法。1932年、精神科医シュルツがヨガをヒントに提唱。静かな部屋で自己暗示をかけ、四肢の重感・温感、心拍数・呼吸がゆっくりとなる等の暗示を体感し心をリラックスさせた後、催眠消去動作を行う。


漸進的筋弛緩法

全身の筋組織の弛緩、緊張を繰り返す方法論で、Jacobsonによって1920年代初めに開発された。原法では、全身の筋組織を細かく分け、1 つ1つの部位の緊張‒弛緩を繰り返すが、複数の筋組織を同時に緊張‒弛緩させ全身のリラックス感を得る簡易法が用いられることが多い。

バイオフィードバック法

対象者自身が生理状態を変容、コントロールする方法を学ぶために、筋緊張、皮膚温、血圧、心拍などの生理反応に関する情報を、数値やグラフ、光、音などを対象者に提示する方法。

バイオフィードバック方は以下の文献に詳しく紹介されている。

リラクセーション技法の比較

呼吸法、筋弛緩法、自律訓練法を比較し、効果測定を行った研究がある。


アプリケーション例

近年、ストレス管理やリラクセーションの効用に注目が集まり、そのアプリケーションも数多く発表されている。勿論、その中には理論的背景が確かのもの、不確かなものもあるだろう。余りにも種類が多過ぎるので、本稿での紹介は割愛し、代わって東京大学 下山研究室のリラクセーション技法実装を紹介する。


リラックス状態の測定/評価方法

計測の留意点

ストレス状態/リラックス状態を測定する方法として、多くの手法が提案されている。システム化に当たって、コスト vs 精度、実時間性(反応速度)、接触 vs 非接触で、アプリケーション設計の留意点を下記に記載した。

  • コスト vs 精度 ・・・ 一般的に計測コストと精度は交換条件となることが多い。例えば、スマートフォンに内蔵されている機器を使えば、計測コストは0に近づくが、精度が課題となる。逆に大がかりで高額な機器を使えば、精度は高まるが、コストは大きくなる。
  • 実時間性(反応速度) ・・・ 現在の科学では、脳の中を直接観察し、ストレス/リラックス度合いを測定することは技術的に困難なため、ストレス反応、即ちストレスを受けた結果として発生する現象を計測する形式になる。従ってストレス反応が発生するまでの時間によって測定方法の向き不向きが決まる。例えば、唾液アミラーゼを使う方法では、ストレスを受けてから反応があるまで、数分が必要である。従って、高い実時間性が要求されるアプリケーションには向かない。
  • 接触 vs 非接触 ・・・ 接触型のセンサの場合、対象となる人の動作の妨げとなる場合がある。例えば、指先に付けるセンサであれば、料理のストレスを測定することは難しい。また、一般的な脳波測定器のように、人が装着することに負担感も留意する必要がある。
    実験室内で測定する想定のものについては、課題とならない場合が多いが、一般ユーザが日常生活で使う想定のものについては留意が必要である。前述の例でいえば、料理の各過程でのストレスを測定し料理器具の開発に役立てるということであれば、非接触で精度を追及する考え方もある。一方、日常生活の料理をしながら使う機器であれば、センサの装着或いは設置場所について設計する必要がある。
    また、接触型のものは、対象者が自らセンサを身に付ける行動をとる必要があるため、プライバシが課題になりにくい。これに対して非接触型の者は対象者の同意を得ずに測定することができてしまうので、対象者から「盗撮」と認識されかねず、プライバシについて検討する必要がある。


主観評価

測定法は主観評価と客観評価に大別される。主観評価は対象者に質問票への記入を依頼し、結果を回収し評価するもので、主に心理学の分野で開発されてきた。代表的なものとして POMS: Profile Of Mood Scale、TMS: Temporary Mood Scale、ERS: Emotional Relaxation Scale を以下に紹介する。

POMS: Profile Of Mood Scale
TMS: Temporary Mood Scale, 一時的気分尺度
ERS: Emotional Relaxation Scale, 心理的リラクセーション尺度

生体内物質

生体内物質(バイオマーカー)もリラックス度を測るために利用される。唾液を利用したストレス測定についてはストレスを題目にしたページで触れたのでそちらを参照してほしい。


生体情報

顔面皮膚温

サーモグラフィ(赤外線センサー)によって主に顔面の皮膚温を検知し、評価する。鼻部皮膚温下降 はストレスを意味し、上昇はリラックスを意味する。非接触でストレス/リラックス度を計測できる手法。


顔面皮膚色

前述の手法は顔面の皮膚温からストレス度を測定するものであったが、顔面の皮膚の色からストレス度を測定する手法もある。この手法でも非接触で計測ができる。


体温

体温からリラックス度を測定することもできる。一般的に体温の上昇は快感情を意味し、体温の低下は深い感情を意味する。下記にある実験の結果を掲載する。この実験では、元々快感情が強い状態から測定を行ったため、不快感情は優位な数値が取得できたが、快感情による変動は微細であったとのことである。


血流

リラックスすると副交感神経が優位になり、末梢血管は拡張し血流量が増加する。特に指先は皮膚以外の血流変化が少ないため、測定部位として用いられる例が多い。


心拍/脈波

心拍波形の揺らぎからストレスの指標を算出することが知られている。脈波の解析については以下の記事に説明がある。最近では、スマホ本体に搭載されているCMOSカメラを受光器、LEDフラッシュライトを発光源とした脈波測定方法もあり、スマートフォンのアプリが複数発表されている。


皮膚電気活動(EDA, Electro Dermal Activity, 発汗)

緊張したときに「手に汗握る」というが、この現象を精神性発汗といい、交感神経の緊張や覚醒水準の高さを反映する。この精神性発汗を電位として測定したものが皮膚電気活動(EDA)です。


脳波

脳波からもリラックス度を推定することができる。脳波は周波数からδ波、θ波、α波、β波、γ波に分けて考える。α波はリラックス状態で多くみられる。但し、それぞれの波には個人差があるため、各波の割合を平常時と比較する場合が多いようである。


脳血流

ストレス負荷を行う場合、前頭前野の酸化ヘモグロビンが増加する。そこで、近赤外線分光法(NIRS:near-infrared spectroscopy)を用いて、前頭部から側頭部にかけての脳内酸化ヘモグロビン(HbO2)濃度を測定する。


表面筋電図

皮膚表面に貼り付けたセンサによって、筋肉の収縮度合いに応じて変化する微弱な電位を計測する手法で、実時間性が高い計測できる。


Well-Being Glossary Index


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