生体情報からみる快眠の要因 塚田さん & 空調使用量予測モデルの構築 井川さん @青山学院大学 熊谷研究室

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研究インタビュー 青山学院大学 相模原キャンパス 理工学部 熊谷研究室 '18 12/21 14:30

塚田さん

  • 研究について教えてください。

  • 睡眠における生体情報や温熱環境などを測定して、 データ分析をして快眠の要因を調べています。

    従来研究では睡眠の快適性について詳しく定義されていないために、環境制御をどう行なえばよいのか分かっていません。そこで、睡眠と温熱環境の関係性について着目し、研究を行なっています。

    具体的には、心拍数変動の安定や睡眠中における覚醒回数、深睡眠時間の割合などと睡眠時の生体情報と温熱環境との関係性を分析しています。

    最終的には、簡易的に測定した生体情報を基に温熱環境制御することを理想としています。 例えば、対象者が覚醒してきたらセンサーで検知して、 クーラーの温度を調整し、快眠が続くようにするとか、 寒すぎて起きてしまうことも空調で制御するとか、 そこまでいくには相当時間がかかると思いますが。

  • とにかく長く眠りたい時はどうすればよいでしょうか。

  • 無意識に起きてしまう「覚醒」の回数を減らすように考えることはできます。 ただ、それが空調管理で制御できるかというと、人によって大分違ってくる。 例えば僕ら二人が同じ部屋で寝てみても、覚醒回数が全然違います。 何が原因なのかは分からないんですが、人間の内部の構造の違いかもしれません。

    覚醒しているかどうかは心拍数と心拍間隔から睡眠ステージを推定する装置を用いています。 本来なら脳波計で測定するんですが、 それによって快眠が妨げられるので、脳波計は諦めました。 今年から睡眠を妨げない新しい装置を胸部につけて測定しています。

  • はやく寝たいときはどうすればよいでしょうか。

  • 寝るまでの時間を短くするには深部体温の下降が必要だろうと推定する研究はあるんですが、 温熱環境の調整は今後の課題です。 深部体温が下がったら寝るという理論だと、 クーラーをガンガンきかせればいいのかという話になりますが、 冬場はできないですよね。 人体は寝るときに熱放出をして体温が一定になるので、 熱放出がちゃんと出来ると、寝るまでの時間も変わってくると思います。

  • 入眠時の深部体温の下降が睡眠を引き起こしているということは分かっていますので、 その深部体温を制御するにはどういうアプローチがよいのかを研究しています。

    因みに起床のほうは深部体温の上昇が起因するかというと、そうではありません。

  • 今後の展開は?

  • 睡眠の快適性が分かったら、 それをコントロールする温熱などの環境を変えることに繋げられたらと思います。 人間の快適さを空調で管理するということです。 例えば寒すぎて起きてしまうとか、 寒いからおしっこに行きたくなって起きてしまうというのをなくすとか。 あと乾燥していると喉が痛くて目覚めが悪くなるのをなくしたりとか。 そういう研究にも使えると思います。 眠りやすい環境が作れたら睡眠導入剤とかも使わなくていいかもしれません。

    修論はまだ仮提出の段階で、発表は2月です。 いったん出してすっきりはしましたが、ここからまだやることはありますね。

  • 卒業後のことについて教えてください。

  •   通信系S社を予定しています。 携帯事業だけじゃなくて自動運転とかロボットとか、 複数の事業をやっているので面白みを感じました。 まだ配属先は決まっていませんが、 総合コースという技術系も営業系も選べる部署に受かっていて、 人事の方との面接を通して、技術コンサルタントというのがいいんじゃないかと考えています。 プロジェクトを統括して、技術の人と営業の人と一緒に成功させる、 コンサルというよりはSI=システムインテグレーターという形になると思います。

井川さん

  • 研究について簡単に教えてください。

  • 僕は空調によって制御されている部屋の中のエネルギーに着目しています。 人間が生活する中で快適な空間を考えると、 温度だけではなく実際は湿度も関わってきます。 例えばからっとした暑さとじめっとした暑さだと、 じめっとした暑さの方を不快に感じます。 それは部屋の中にあるエネルギーの量が多いからです。 居室のエネルギーはエンタルピーに着目し、エンタルピーの値が高いと人間は不快に感じるし、 一定の値以下になると快適になると考えられています。 そこで部屋の中のエネルギーの量をうまくコントロールしてあげようという研究をしています。

    例えばビルや大学など大きな施設で何個も部屋があると、 それぞれが好き放題使わないように例えば28度とかに設定されます。 東日本大震災が起きた時に節電が叫ばれて、 夏場でも28度にしましょうと言われましたが、 暑くてとても生活できないということもありました。 そこで、快適性が保たれ、尚かつ省エネができる線をみつけるというのが僕の研究です。

  • 天気予報で平均気温を予測して、 来週の月曜日にはこの部屋で大体8時間 1500のエネルギーを使うということが分かれば、 使用計画も立てやすい。 もし使用を1時間延ばすと電気料金がプラス10万かかるとすると、 じゃあ残業する意味ないよねという結論になるかもしれない。 計画があることによって空調の使用の仕方も変わってくると思います。

  • エンタルピーというのは快適度ということですか。

  • エンタルピーは快適度に比例します。 エンタルピーがどれくらいからどのくらいの値だったら快適か、あるいは不快か、 という指標があります。 エンタルピーが高ければ人は暑くて不快に感じる、 逆に低すぎても寒くて人は不快に感じる。 エンタルピーの大きさによって段階的に快適性を評価しています。

    (変更)エンタルピーという用語は物理でも使われているんですが、 ここでは居室のもつエネルギーの総熱量のことです。  公式をみると温度と湿度が関わってくるものとなっています。 冷たい熱を投入することによって部屋のエンタルピーは下がります。 でもその日の空調の稼働時間の長さや、外部の気温や、 部屋の中のパソコンや人間の数によって、空調の使用量は変わってきます。 ほかにも平均気温や外部からの日射や、曇りと晴れでも違ってきます。 その変わってくる要因のデータをセンサーでとっているので、 一日にどれくらい空調を使うのかを予測するモデルを作っています。

  • 暑さや寒さの感じ方の個人差はどう考えますか?

  • 暑さや寒さを統計的にどのように感じるかというデータがあります。 これはアメリカで作られた指標であり、アメリカ人と日本人では体型も生活スタイルも違うので日本人に向けて改良されたものを使って快適性を評価しようと考えています。 人によって感じ方が変わってくるというのは、そのモデルができた後に、 微調整してくださいねという方向になると思います。

    この研究によって、 部屋で一日にどれくらい熱を使うかを予測できれば、 人間が快適な状態にいるのかを見るのは次の段階になるかと思います。

  • エンタルピーと省エネのバランスはどうやってとるものなんですか

  • (変更) モデルを使用した際に、エンタルピーがある一定の値を超えてしまうと人体に影響が出るというような閾値があります。できたモデルつまり使用計画を見て、その一定のラインを超えない、 さらにエンタルピーを下げると快適な状態になるというギリギリのラインに抑えるのが理想だと思います。 ただそ の快適性というのはまだ議論できていません。 今回は不快指数という、エンタルピーに依存する指数があるので、 それを元に空調を制御する計画を作成できればと思います。

  • 例えば企業のビルなどで、天気予報や例年の情報をもとに、 一日に大体これくらいのエネルギー量を使うかが分かります。 企業としてはもっと減らしたいと思うけど、 データ上これ以上減らすと人間のほうに影響を与えてしまう、 という一つの指標になればいいなと思います。 あとは、1時間のばすとこれくらい電気料金がかかるから、 昼時だけはどうせお昼を食べに行くから少し温度を上げようという判断もできます。 未来の使用量がわかることは、ユーザーの方々の意思決定の材料になりえます。

  • 10年後や20年後、クーラーや空調はどういう形になっていくと思いますか。

  • 温度設定なんてないと思います。 設定というよりは、あらかじめ購入の段階で、暑がりとか寒がりとか、 そのボタンを押すだけで設定の温度―――温度というかエンタルピー値になる。 それと同様に湿度もコントロールできると思うので、 からっとした涼しさにするとか、冬場だったら水分量を増やすこともできると思います。 ただ、会社などのように人が沢山いる場所だと、どれだけ不快な人を増やさないか、 快適な人を増やすというよりは不快な人をなくすという方向で考える必要があると思います。

  • 卒業後のことについて聞かせてください。

  • 技術系でIT系のI社に行く予定です。 システムを作るというよりはプロジェクトを動かしていくプロジェクトマネージャーという仕事になると思います。 僕が配属されるのは、自社の製品に特化した部署です。 お客様の要望を、営業の人やコンサルの人が持ってきたときに、 自社の製品をお客様用にカスタマイズしていきますが、 カスタマイズは他の会社の方にやってもらうので、その工程を管理する立場です。

    この会社はITの中でも最先端のものを、 しかもハードからソフトまで一社で手掛けているところです。 全部自社で必要なシステムを持っているので、 いくらでもやりたいことが見つけられるとOBの方に伺いました。 最先端のところで好きなことをやれるチャンスが頂けて、 結果を出したいなと思いました。

  • 何か作ってみたいシステムなどはありますか。

  • 僕はシステムを作るというよりは管理に近い形なので、 最終的には、教育をやりたいと思っています。 教育というのは新人教育とか、仕事の中での教育の仕方、 プロジェクトマネージャーなどの育て方のことです。 理由は、自分が今まで学ぶ中で、 もっと自分に適したやり方で教えて欲しいとずっと思ってきたからです。 例えば中学校で英単語を覚えるときに、 私はローマ字表記で全部覚えればいいと思いましたが、 違う、ただ暗記しろと言われる。 そもそもローマ字は日本語用に作ったもので、 全ての言葉をローマ字で表記することはできないとか、 そういう当たり前の情報を教えて欲しかった。 その気持ちを忘れずにいるんで、 ゼロからわかるように説明するようにしていますし、 最終的にはそういう仕事につきたいなと思っています。

  • 修論は発表までにどこまでもっていきますか。

  • 今は仮提出が終わって、2月に発表があります。 終わるかなという不安が大きいですね。 自分の出来から考えると、まだ40%か50%だと思うので、 残り1か月で100%にしないといけない。 納得いく結果がまだ出ていなくて、分析手法を見直したりて違う形にする必要があります。

熊谷先生から一言

相互に関連する複雑な要因を考慮して,運営のためのじょうずな仕組みを考える
研究室では,マネジメントシステムをテーマを扱っています。マネジメントというと,企業や組織を対象としたものが主ですが,睡眠や空調も相互に関連する複雑な要因を考慮して,運営のためのじょうずな仕組みを考えるという意味では,同じ範疇ととらえられるでしょう。すでにある手法をあてはめて問題解決することばかりでなく,問題の前提や解決策のメリットと限界をみきわめながら,研究に取り組んでいってほしいと思います。

熊谷研究室 研究紹介

Keywords: 経営管理システム、ビジネスモデル、ビジネスプロセス、環境経営、空調マネジメント
Themes: 財務や人事など企業内のシステムや、経営分析システム、環境管理システム、空調管理システム、教育システム ・ 企業戦略を分析するモデリングの方法、新しいビジネスの仕組みを創出するための方法論、経済性の評価法、経営分析の方法
Collaborative Research: 居室空調の監視用センサネットワーク、居室設置型制御用デバイスの試作
Wi-Fi電波の可視化 大澤さん・小林さん&アバタによる遠隔介護システム 小田さん @青山学院大学 佐久田研究室
脳波を用いた教材動的制御