大学発の技術の社会実装における課題

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青山学院大学 Well-Being URA 杉野洋一

社会課題解決に向けた大学の役割に大きな期待が集まっている。大学としても社会情勢の変化に対応していくため、外に出ていく必要を感じている。本稿は、大学が社会実装に取り組んでいくための論点を整理し、今後の参考にする目的で書き記したものである。

本稿は、2019年11月27日にユニコムプラザさがみはら内で行われた市民・大学交流会「市民大学交流会 大学との連携を考える団体担当者向け実践講座」で、筆者が話した内容を改めて書き起こしたものである。

https://unicom-plaza.jp/news/8439

尚、本稿は飽くまで筆者個人の考えであり、当学或いは当プロジェクトの意見、見解を代表するものではない。また記載内容は飽くまで一般論や筆者自身が人から聞いた話であり、当学や他の特定の大学の状況を意味しない。この点、ご留意願いたい。

大学を考える上で、まずは大学を巡る環境変化を考察する。

最近、話題になった大学関連のニュースには以下のものがある。今年は大学入試共通試験において英語の民間資格導入と記述式の導入といった改革が撤回された。また、某私立大学が外国人を研究生として大量に受け入れており、多数の研究生と連絡が取れないことが明らかになったこともあった。某大学アメフト部の不祥事も記憶にあたらしい。入試における得点調整の問題もあった。研究不正についても度々話題になっている。一方で、ノーベル賞を受賞した研究者からは度々基礎研究に予算を回してほしいという要望が出されている。

こういった出来事の背景を明らかにし、大学の現状を理解する為、まずは大学の収支面での変化を概観する。日本の大学には私立大学と国立大学、公立大学がある。本稿では資料の充実度から国立大学と私立大学を取り上げる。その収支は2つの制度で大きく異なる。まずは国立大学の状況を取り上げる。スライド5に国立大学への政府補助金額推移と予算配分を示した。出典は国立大学の連合組織が文部科学省に提出した要望書である。資料中の「運営交付金」は使途に制約がなく、大学の経常経費として利用できる補助金、逆に「競争的資金」は政府が指定した研究・教育に対して支払われる補助金である。一般的に競争的資金は条件を指定し公募を行い、複数の研究提案から選択的に補助金を支出する。応募した全ての研究に予算が割り当てられるわけではない。

同資料を見ると、平成16年(2004年)から平成30年(2018年)までの15年間で、運営交付金は10%強、額にして約1,500億円程度が削減されている。そのため、国立大学の経常収入を見た場合、使途に制約がない補助金の割合は、約2/3から半分にまで落ち込んだ。この落ち込みを埋めるべく、国立大学では競争的資金の導入及びその他の収入を増やしてきた。競争的資金の内訳は、資料中に「競争的資金等は、補助金等収益、受託研究等収益等、寄付金収益、研究関連収益 及びその他の自己収入の合計額」とある。

競争的資金には、直接経費と間接経費という概念がある。直接経費は、当該の活動に対して発生する費用を意味し、人件費、施設利用費、原材料費などが主なものである。一方、間接経費は大学全体の運営費や管理・調整費が主な費目である。文科省は2017年から補助金や研究受託費に間接経費を上乗せすることを推奨している。この取り組みが普及すれば、大学が自由に使える資金が増えることになる。しかし、実際には各大学が10%~30%の費用を間接費として研究受託費に上乗せしている状況であり、これで大学の運営費を賄うには大いに不足している。

結論として、国立大学は政府からの補助金が大きく減額され、財務状況は厳しいと考えられる。政府の財政状況を勘案すると、今後、補助金が減ることはあっても増えることは考えにくく、国立大学の資金難は当分継続する。国立大学の再編の話も出てきており、教育・研究・財務基盤の強化がなければ生き残りが難しい状況である。

社会実装にしても、企業との共同研究や競争的資金の導入など、何らかの予算措置を講じる必要がある。

国立大学に続き、私立大学の補助金を考察する。前述の通り国立大学への補助金は「運営費交付金」と呼ぶが、私立大学に対する補助金は「私立大学など経常経費補助」といい、別名「私学助成金」とも呼ばれる。スライド7私立大学の経常的経費、補助額、補助割合を示した。出典は文科省である。これに大学進学者数推移を重ねて表示した。出典は文部科学省 科学技術・学術政策研究所である。

私学助成金の割合は昭和55年(1980年)の約30%を頂点にその後減り続けており、直近の数値では10%を割り込む。原因の一つは私立大学の経常的経費が増えたからである。即ち、大学の数と学部数が増え、定員が大幅に増加したたためである。昭和51年(1976年)に比べて大学入学定員は2倍弱に増えている。(※ https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo4/siryo/attach/__icsFiles/afieldfile/2012/06/28/1322874_2.pdf) 私立大学は全国で587校あり、約1/3が定員割れしている。(https://www.keinet.ne.jp/topics/19/20190813.pdf) 18歳人口が減り続ける中で私立大学の学生募集は極めて厳しい。定員割れの場合には私学助成金も減額となるため、特に新興大学における学生募集は死活問題である。

その為、志願者増につながる連携を提案することができれば、大学内の動きが円滑に進むと考えられる。

日本人の18歳人口が減り続ける中で、訪日留学生の数は急増している。平成24年(2012年)から2019年の7年間で訪日留学生数は2倍弱に増えた。(https://www.jasso.go.jp/sp/about/statistics/intl_student_e/2018/__icsFiles/afieldfile/2018/12/18/datah30z_1suii.pdf) 直近の数字で留学生数はおよそ30万人である。日本の18歳人口約100万人と比較すると、その大きさが理解できる。

私学助成金は今後も一定割合で継続が期待できるか否かを考えると、前述の通り定員割れによる減額以外にも入試不正や学校法人の管理運営などによって減額される可能性がある。加えて、私学助成金には一般補助と特別補助があり、特別補助は教員数・学生数を主とした補助金計算方法ではなく、特定の政策目標を元にした予算を作り、私立大学が申請し、交付条件を満たすことで支払われる補助金である。特別補助が各私立大学の理念と一致する際には望ましい補助と言えるであろうが、そうでなければ文科省の方針に従う大学だけが得られる補助金ということになる。

補助金については、公平性、公正性を重んじ、特定の条件を満たすことで平等に支払われる性格のものから、政府の特定の政策目標に合致する事業体に重点配分されることが一般的になってきている。つまり条件に即して一律に払われるのではなく、政府方針に従った活動を行う大学に多く支払われる。「特別補助は、大学改革を促すという効果がある反面では、大学改革を画一メニュー化し、改革の自発性と個性を損なうというデメリットもある。」(帝京科学大学学長 瀧澤 博三, アルカディア学報 2050号(2002.02.13) )

前述の競争的資金は多くが、国立、私立を問わず、応募が可能で、その面では私立大学のチャンスが広がったと考えられる。財務基盤が堅実な私立大学ではそれなりの設備を持って、それなりの競争的資金を獲得できる可能性がある。一方、私立と言えば文系である。私立大学の文系学生数は理系学生数の2倍と言われている。当学も理工学部、文理融合の社会情報学部を加えても全学生数の20%程度であり、残りの80%の学生は文系学部に所属している。文系学部ではその研究内容が直接収益事業に繋がりにくいことから、競争的資金の恩恵は少ないと考えられる。実際、人文科学、社会科学への政府補助(科研費)は減少傾向である。(http://hibi.hatenadiary.jp/entry/bunkei2)

定員割れの心配のある新興大学のみならず、その心配がない伝統ある大学でも将来的に自治を守って行くことが大きな課題である。私立大学の自治、学問の自由、理念に基づいた教育は、政府補助金に頼らずとも運営できる健全な財務基盤無しには考えられない。

競争的資金の導入は、組織体としての大学だけでなく、そこで教育・研究に携わる人材にも大きな影響を与えている。スライド7は若手研究者を巡る状況を表した資料である。出典は前述の国立大学の連合組織が文部科学省に提出した要望書である。国立大学の全教員数は増加している一方で、 任期無しの教員は5,000名程度減少しており、40歳未満でも5,000名減少している。即ち、40歳未満の教員のポストが任期ありに切り替わったという計算になる。こうした状況の中、博士課程入学者数は4,600名、率にして約40%減少した。資料では「長い年月、研究を続けていける状況を作ることが必要」と結論付けている。

博士課程の学生数減少は、各研究室の研究力の低下を意味している。大学の研究室は基本的に、PI (Principal Investigator)と呼ばれる研究室主宰の教員、助手・助教等の教育を支援する教員、博士課程の学生、修士課程の学生、学部生となっており、実際に有意義な研究は博士課程の学生以上でないとなかなか難しい。博士課程の学生は教育に時間を取られない分、自分の研究に打ち込みやすい。つまり博士課程の学生の数はそのまま研究室の研究力を意味している。

任期付き研究者の増加の一因となったのが、競争的資金の導入であることが指摘されている。即ち、任期無しの教員の給与は基盤的経費予算から支出されているのに対し、任期付き研究者の給与は競争的資金等の外部資金によって支出されている。(文部科学省 科学技術・学術政策研究所(NISTEP) 「大学教員の雇用状況に関する調査-学術研究懇談会(RU11)の大学群における教員の任期と雇用財源について」 2015年9月17日(木)) 言い換えると、競争的資金等の外部資金は期間が決まっており、この資金を予算として採用した人員は期間が終了すると共に雇用も終了する。

このような状況に対応するため、多くの若手教員は、長期に腰を据えて取り組む研究よりも、短期的に成果が出せる研究を行う傾向がある。そして、政府の大学補助金の方針の抜本的転換がない限り、今後もこの傾向は継続すると考えられる。

こうした環境の変化に対する当学の取組みをスライドに示した。詳しくはスライド或いは記載したURLを参考にしてほしい。

  • 万代基金

    「万代基金」は、給付型奨学金(フィナンシャル・エイド)と教育研究資金(AOYAMA VISION)の充実のために寄付を募る。2018年4月から募集開始。

    https://www.aoyamagakuin.jp/support/variety/mandai/index.html

  • 院生40人を「助手」雇用

    2020年度から博士課程の学生の約40名を院生助手として採用する制度を開始。理系だけでなく文系若手研究者も対象に全学で実施する。

    https://www.aoyama.ac.jp/post06/2019/news_20191003_02

  • リエゾンセンター

    2017年リエゾンプロジェクトとして相模原キャンパスに設置、2019年にはリエゾンセンターとして改組。地域・企業との受託研究・共同研究を促進するために、本学の組織的な研究支援体制を強化。

    http://liaison.iro.aoyama.ac.jp/

前章では主に収入面から大学の環境変化について考察したが、本章では大学の組織について考察する。

まず、大学内で働いている人員はその職務内容から大きく職員と教員に分かれる。教員は研究及び教育を主導する人員である。教員には専任と非常勤講師がある。非常勤講師は他学の教員や複数大学の掛け持ち、或いは他に本業を持っていることも多く、実質的には大学外部の人間である。一方、専任教員は所属する大学が一校であり、大学内部の人員という性格がある。専任教員には、前述の通り、有期(任期あり)と無期(任期無し)があり、若手教員程、任期ありの雇用形態が多い。

専任教員は大学組織に裁量労働制労働者として雇用されている。裁量労働制労働者は、時間に拘束されず、みなし労働時間を元に固定残業代が支払われている。即ち大学職員が残業する場合には残業手当が必要となるが、大学教員が残業する場合には追加の残業手当は不要となる。勿論、見なし労働時間を超過した場合、或いは時間外労働に対する残業代は支払われる。企業組織に比べて大学では教員の残業代削減の誘因がないため、教員の業務効率化への圧力は弱いものと推定される。

大学教員(研究者)の過重労働感調査の結果をスライドに示した。当該調査は2017年に11大学の研究者、5事業所の研究者に対する調査である。標本数が少ないが、参考になるものとして掲載する。

同調査によれば約半数の教員が過重労働と感じている。労働時間が長い、休日が確保できない、疲労蓄積でも休めないという労働環境に関することも一定数の回答があったが、約半数が「同時に抱えている案件が多すぎる」「研究・教育以外の業務が研究・教育の時間を圧迫している」と回答している。特に、研究・教育以外の業務が過大であると回答した割合は、大学研究者では企業研究者の1.7倍以上の回答数があった。

研究・教育以外の業務が過大であるという仮説を検証するために、スライド17に「大学等教員の職務活動時間割合の推移」を示した。出典は文部科学省 「2018年度 大学等におけるフルタイム換算データに関する調査報告書」である。医学部等の保健分野ではその他と傾向が大きく異なるため、分けて表示した。理工農分野は、各分野の数値を平成30年の分野別教員数を元に加重平均している。本来、各年度の分野別教員数を元にすべきであるが、ここは簡便な方法で充分と判断した。

この資料によると平成14年(2002年)から平成30年(2018年)で、両分野とも研究に掛ける時間が大きく減少しており、大きく増加したのは教育活動である。理工農分野では研究活動、教育活動以外の活動が少しずつ上昇しており、保健分野では教育活動以上に社会サービス活動(その他:診断活動など)が大きく増加している。

研究・教育とその他業務という分類で計算してみると、結果として16年間で、その他業務は、理工農分野の場合に5%、保健分野の場合に10%以上増えた。

大学教員は、労働時間は比較的負担が少ないものの、研究・教育という本業以外の業務が数多くあり、過重労働と感じている割合が半数を超える。

大学が社会実装を進めていくためには、大学教員の負荷軽減も考慮する必要がある。

前節では大学教員について述べたが、本節では大学職員について考察する。

スライド19に大学経営陣からみた職員の課題調査の結果を掲載した。同調査は私立大学231校の常任理事ないしは事務局長に対する調査結果である。職員の課題の内、上位5つを挙げた。この中には、専門性や業務負荷についての課題もあるが、危機感が希薄、改善意識が不足といった意識に関する項目が2つ入っている。

経営陣が職員に対してこのような印象を持つ理由として、他の組織に比べて、伝統的に職員が経営意思決定に携わる機会が少なかったこと、大学という事業上、4月時点で収入の殆どがほぼ決まっており、急な変化が起きにくい性質があることが考えられる。最近では職員が理事として大学経営に携わる機会が増えたが、大学経営は基本的に学長や教授会など教員が担って来た。結果として、大学経営者が抱くような危機感が不足している場合もあるようである。

前述の印象を経営者が職員に抱く原因には、必ずしも職員個人の責に帰さないものもあるであろう。一説によると、1996年から2008年で大学の有期雇用職員の割合は2倍になり、およそ4割が有期雇用職員となっている。(https://doors.doshisha.ac.jp/duar/repository/ir/14993/031000930005.pdf) 派遣職員や嘱託職員は与えられた業務を着実にこなすことに価値観を持っていると仮定すると、前述の経営者の職員に対する印象は自然に理解される。

大学の職員組織は基本的に機能別組織であり、課題を見つけ自ら仕事を企画していく業務と異なり、与えられた業務をこなしていくことに重点が置かれている。このことも大学職員の気質に影響があると思われる。

参考までに個人的な見解ではあるが、大学組織を理解すると題したフォーラムでの発表内容の一部を掲載した。この中で「考えることは教員 言われたとおりに作業するのが職員」という文言があり、これは前述の調査結果とも一致する。

勿論、前章で考察した通り、少子化と政府補助金の縮小から、大学は大きな変革期にあり、従来の職員像から新しい職員像が求められ、今後は徐々に変わっていくものと推測される。全ての職員が前述のような価値観を持っていると考える事もできない。しかし、過去からの流れで、「守り」の意識が強い職員も相当数存在することに留意する必要がある。

大学の組織構造をスライド22に示した。典型的な大学は、学長から学部長会、学科長、教授に繋がる教員の組織と、学長が事務を管掌する事務組織に分かれている。これ以外に、学内組織として、産学連携、研究所、ボランティアセンターなどがある。

教員組織と職員組織はその運営手法が大きく異なる。職員組織は前述の通り一般企業でもよくある機能別組織で、上司からの命令で統制される組織である。一方、教員組織は権威(カリスマ)で動く組織である。大学以外の組織でも、例えばNPOでは理事長が活動の意義をメンバに理解させ、それがメンバの活動に繋がっている組織もあるであろうし、士業事務所でメンバの独立性が強い組織でも組織長が意義を説明し組織的な活動を促す場合があるであろう。本件をより深く理解するために、少し長いが、ある学部長のインタビューの内容を紹介する。

「入学部長として教員に入試採点、面接などを依頼して回ったのだが、教員がなかなか引き受けてくれなかったことがショックだったそうで、「号令」、「当然にやるべき」、「困ってるから」ということでは教員は動いてくれないことを学んだという。つまるところそれぞれの業務の重要性、意義を訴えることではじめて教員は動いてくれることを学んだことが大きく、大学教員はトップが言うから動くのではなく、ミッションをシェアするから動くのだ」(大学運営における学部長の役割と実態, 塩田邦成, 大学経営政策研究 第8号(2018年3月発行):133-149)

教員の組織は最後は学生までつながり、教員は学生に対して研究の意義や学業の意義を理解させ、研究や学習を促す。こういった組織では、最上位機関の人員の活動量が多くないと、下位機関の人員に対して権威を持って動かすことは難しい。従って、教員組織を動かしていくためには学長に最大の活動量が求められ、それを実践している学長も多い。

教員組織の末端は研究室であり、そこには学生が参加している。学生は教員の指導や博士課程の学生の支援によって、卒論・修論を執筆する。しかし、組織として考えた場合、学生の成果を保証することは困難である。一つの理由として、就業前の訓練として大学での研究が位置付けられていることが挙げられる。研究は彼/彼女らが有償で受ける仕事ではなく、寧ろお金を払って受けている教育である。また、研究は学生にとって、やれば必ずできる作業ではなく、事前には成功が保証されない挑戦という性質がある。教員はなるべく高い水準を各学生に要求し、学生それぞれにとって最大の教育効果を狙うことが多いからである。大学との連携を検討する際には、大学が研究だけではなく教育機関であることに留意する。

学内には、教員組織、事務組織以外に、各種の学内組織がある。学内組織の種類は特に定めがなく様々なものがある。代表的なものでは、産学連携窓口、研究所、ボランティアセンタなどである。学内組織の人員は専任の場合もあり、学内の他の組織と兼任の場合もある。 pこれ以外にも例えば地域連携部署を設けている大学もある。

本稿では学内組織として産学連携窓口とボランティアセンタを取り上げる。

前述の通り、政府の方針として競争的資金の導入が推奨されている。しかし、教員の過剰労働感は強く、教育・研究以外の業務が負担となっている。競争的資金に応募するためには研究提案書やその他の書類を準備する必要があり、教員の教育・研究時間を圧迫する。

そこで、政府からURAの設置が推奨されている。URAはUniversity Research Adminitratorの略で、直訳すると大学研究管理職となる。スライドにURAの員数を記載した。URAはH25年(2013年)から着実に増加している。H29年(2017年)からは産学連携担当もURAとして数えられるようになった。

政府・民間の競争的補助金、産学連携による共同研究など、外部資金を得るために手間のかかる制度が増加してきた。そこで、研究者と職員の中間的存在として、URAは一部の技術分野業務や手間のかかる書類作成業務、学内・学外との調整業務、進捗管理業務を担う。産学連携や競争的補助金の対象となる研究はいずれも専門性が高いものであり、従来の大学職員という枠組みでは対応が難しく、教員の負荷は中々減らせない。そこで研究と事務をつなぐ職業が必要になった。

産学連携窓口は、産学連携に留まらず政府競争的補助金の支援も行うことがある。その員数及び技術的能力によって、陳列型と調整型に分けられる。陳列型の業務では、大学内の研究を様々な機会を通して外部に広報し企業との共同研究の切っ掛けを作る。比較的技術から離れている人員が担当している場合が多い。一方、調整型では研究プロジェクトのコーディネート全般を行う。企業が関心を持ちそうな技術をこちらから働きかけたり、或いは企業ニーズに沿った研究提案をするマッチング業務を行う。実際に補助金採択、共同研究開始後には、確実に成果を上げるために進捗管理を行う。研究に対して深い理解が必要なため、教員OBが担う例もあるようである。政府・自治体の補助金については、陳列型、調整型いずれでも行っている。

財務基盤が堅実な大学では、研究用の先端設備の導入を行うこともある。こうした設備を外部に貸し出す形の共同研究は比較的調整が容易であるため、産学連携の一つの形になっている。

最後に学内組織としてボランティアセンタを紹介する。

ボランティアセンタは学生・教職員のボランティア活動の窓口になることが期待されている組織である。スライドに神奈川県に教育拠点を持つ大学でボランティアセンタがある大学を列挙した。全てをくまなく調査したわけではなく、目に留まった一部を紹介する。

大学名に「学院」とつく大学は、基本的にキリスト教系であり、その教義からボランティアセンタを設置することが多いようである。

大学には、社会実装を担う実働者がいない。そのため、人手が必要な事業は難しい場合も多い。活動の教育的な効果が高いと認められればボランティアセンタも相談にのる場合があるであろう。

大学との連携を考える上で、大学組織の特徴以外に、2つのギャップがある。

一つ目のギャップは社会課題と技術課題である。大学が社会実装を行うにあたっては、社会課題を解決、克服していく取り組みが求められるが、大学研究室で行っているのは技術課題の解決である。スライドに参考として当プロジェクトの社会課題と技術課題の対照を列挙した。例えば、社会的には睡眠を充分にとり健康増進を図るという課題があるが、研究室で設定される課題は、従来の高額測定機器、負担感の強い測定方法から、低額の機器を利用し負担感の低い測定方法を開発するという技術課題である。特に理系では、現実を数理で捉え、学問的に正しい解法が求められるため、問題を絞っていく必要がある。社会課題解決のためには学内学外を問わず複数の研究室の複数の技術を組み合わせ、総合的な取り組みを行っていく必要があるが、大学は研究室の独立性が強く、研究室同士の共同研究はどちらかというと苦手な分野である。

大学内の各研究室の研究を理解した支援組織を強化し、研究内容を把握している人材を増やし、社会課題に対して大学の提案をまとめる機能の実装が課題となる。

もう一つのギャップは技術開発と製品開発である。製品・サービスが市場投入されるためには、一般的に技術開発、製品開発、販売活動という過程が不可欠である。技術開発は大学の要素研究でも活用することができる。一方で、製品開発と販売活動は大学で行うことは難しい。技術を製品として確立するために、安全性、対故障性、利便性、製造の容易性などを確保する必要がある。ITの分野であれば、運用のしやすさや例外発生時の処理を実装し、対象者が利用可能な状態に高める必要がある。また、販売においては、ビジネスモデルとそれに裏付けられた販路を確保する必要が生じる。これらの機能は大学にはない。

大学発の技術の製品化を考える際には、こうしたギャップを如何に埋めていくか、逆に大学から見ると製品化や販売に関心を持ってもらう提携先を如何に見つけるかが課題である。

前章までの問題意識を元に、当プロジェクトが関連した社会実装の企画を紹介する。

1つ目は青山学院大学ボランティアセンター(以下 AGUVC)との企画である。本企画は当学の理想の人物像である「サーバントリーダ」を実践するものとして、学生を主体としたボランティアで研究内容を活用できないかという打診であった。

ボランティア先の提携組織はAGUVCと既に繋がりのある組織を念頭に置き、企画が具体化した時点でAGUVCが選定する。

本件では、研究室で開発されたゲームを活用することを提案した。ゲームの活用は以下の利点がある。

  • 元々一般人が利用することを前提に開発されたソフトを利用することで、ソフトウェアの成熟性を高める追加開発費用が不要。
  • 同様の理由で、一般的なPCで実行が可能で、高額な機材を必要としない。
  • また、複数の学生が複数年に渡って研究対象としてきたソフトを用いることで、一人の学生の研究進捗に過度に依存することを回避。
  • ゲームは元々社会課題の理解を深める目的のものが多く、ボランティア活動との親和性が高い。

上記のように、予算、ソフトウェアの成熟度、学生の研究進捗への依存を回避し、不確実性を大幅に低下させた。後は、計画、実施はボランティア学生の役割とし、提携組織との調整、準備はAGUVC、当プロジェクトが参加することで、具体的な道筋ができる。

2つ目の事例紹介として、神奈川県の大学連携事業を取り上げる。当該事業は「多様化・複雑化する県政の課題を解決することを目的として」いる(神奈川県庁Webサイト)。採択された事業には神奈川県からも一部予算が補填される。

要素技術には、プロジェクトに参加している研究室が開発に関与していた保育園向け午睡時の事故防止センサとソフトウェア一式を利用することとした。この研究は、前に保育園との共同研究を行った際に開発したものである。

まずは、保育園における事故防止センサの普及状況と課題を調査した。結果として、この種類のセンサには大きな期待が寄せられており、文科省、厚労省、経産省は保育園に対しそれぞれ別の補助金を用意している。保育園の業務効率化については、本センサのような個別システムもある一方で、入園から卒園までの業務システムもある。市場は成長期に当たり、多種多様なシステムが発表されている状態である。このような状態で更なる普及を図るためには標準化が欠かせない。例えば、複数のシステムを組み合わせて使えたり、簡単にシステム同士の比較ができたりするのは標準化の効用である。

標準化については、既に数年前に経産省の研究調査で重要性が指摘されている。経産省に保育園システム標準化のその後の状況を問い合わせてみたところ、幼保一体化を視野にいれ、まずは請求業務の標準化に取り組んでいるという回答であった。請求業務は、保育園がその事業内容に応じて自治体に給付請求を起こすもので、各自治体ごとに少しずつ仕様が異なっており、標準化が急務という話であった。

そこで本提案では業務システムとセンサ等の個別システムの接続を標準化するという主旨とした。入力側として生体情報取得センサ、そこからの情報を蓄積する業務システム、出力側としてデータの解析を行い注意喚起するシステムという構成とした。生体情報取得センサと業務システムは、前述の共同研究で既に開発されているもの、注意喚起システムは新規の研究開発である。

前章までで確認した社会実装の課題については、以下の通り検討した。

  • 予算: 神奈川県の補助金を利用することで、大学側からの大幅な持ち出しを回避
  • 成果: 研究成果を事業の成果とせず、社会課題に対応した標準化案に基づく「相互接続性」を成果に設定。万一、研究成果が芳しくない際にも、交付申請の目標は担保できる枠組みとする。社会課題と技術課題は全く別のものであり、社会課題解決に寄与することを目標に設定。
  • 品質保証: 当学及び外部リソースを活用し、実用性を担保する。

本稿では、学外から大学連携を検討している方、学内で産学連携促進を図ろうとする方向けに課題を整理した。また課題を克服していく事例として、当プロジェクトが関連した2つの事例を紹介した。読者の皆さんのお役に立てれば幸いである。

Positive感情とは? Positive感情促進策、測定方法
ユーザの行動を促進する方法とは? 動機づけ、行動変容及びその促進方法