室蘭工業大学工学部「認知心理学」

平成17年(2005年)から平成28年(2016年)まで, 室蘭工業大学工学部で私が担当していた, 「認知心理学」の講義についての情報をまとめたページです. 記録のために残します. シラバス 試験問題例 授業資料 試験答案作成上の注意などを掲載しています.

1.シラバス

講義日程の記録

学習目標

認知科学のなかで,とりわけ認知心理学領域の基礎を学び, 認知科学および認知心理学の視点から人間を理解することが目標です. 認知科学および認知心理学とはどのような学問なのか, どのような基本的知見が得られているのかを学習します.

テキスト

市川伸一・伊東裕司(編著)(1996) 認知心理学を知る 第3版 おうふう

テキストに沿って,各章の内容を解説してゆきます. 1時間(90分)あたりでひとつの章を解説するペースです.

テキストは序章と15の章から構成されていますので(全部で16章), すべての章を講義でカバーすることはできません. いくつかの章はスキップします. 講義で取り上げないことが確定しているのは,第14章と第15章です (第14章および第15章執筆者の野島久雄先生が, 2011年12月21日に逝去されました. 2012年度の集中講義より,追悼の意味で,これらの章を取り上げています. 代わりに,第5章および第7章をスキップしています).

各章のタイトルを以下に示します.

  1. 認知心理学とは何か
  2. 知覚の成立過程
  3. イメージの機能的性質
  4. 記憶の貯蔵庫モデルと処理水準アプローチ
  5. 想起のメカニズム
  6. 概念の構造
  7. 文章理解と知識
  8. 学習の多様性
  9. 知識の命題的表現
  10. LISP による情報処理モデル
  11. メタ認知のはたらき
  12. 人間の論理的判断
  13. 確からしさの判断
  14. 問題解決
  15. コンピュータと教育
  16. 社会的分散認知

成績評価

最終日に試験を行います. この試験の点数(100点満点)だけで成績評価を行います. 出席はとりませんので,出席点はありません. 講義を受講しても,試験を受けないと単位認定がされません.

テキストの各章ごとにひとつの問題を作成します (講義で取り上げなかった章は除きます). 第2章と第8章,および,第11章と第12章は, 扱っているテーマが類似しているので,まとめてひとつの章と考えます. 出題された問題の中から2問を選んで解答します. 1問につき満点は 50 点です.

持ち込みは不可です.

試験の準備として, 講義を聴いて自分が最も興味を持つことができた章を2つ選び, その章の重要なポイントを整理しておきましょう. 多くのことを暗記しておかないと書けないような試験ではありません.

近年,まるで辞典の項目のように,要点しか書かない短い答案が増えてきました. 原則として, 解答用紙の半分に満たない解答には,合格点を与えません.

講義ではとりあげない第14章と第15章について, 試験問題例 を作成してみました. 他の章でもこういった問題が出題されると考えてください.

第9章(LISP による情報処理モデル)では, 短い LISP プログラムが与えられ, その動作を説明するという問題を出題します.

試験答案はすべて添削して返却します. これは,自分の答案のどこがよかったのか,どこに問題があったのかを知り, 試験で問われた知識の洗練や修正,および, 文章作成技術の向上の機会としてほしいからです. 本来なら,半年や1年という期間にわたって, 何度かこのような機会を提供したいのですが,集中講義のためそれができません. それでも,返却された答案から何かを学ぶことはできるはずです.

2.試験問題の例

講義ではとりあげない第14章と第15章について,試験問題を作成しました. これらは実際の試験では出題されませんが, 他の章でどのような問題が出題されるかのヒントになると思います.

第14章の問題

教育におけるコンピュータの役割や位置づけが どのように変遷してきたかを説明しなさい.

第15章の問題

認知が個人の外側に広がっているとする考え方 (社会的分散認知や状況論など)を, 伝統的な認知心理学での考え方と対比して説明しなさい.

現在はこの講義を担当していませんので, 2016年度の試験問題を公開します.

3.授業資料

講義で用いたスライドは以下のリンクからダウンロードできます. PowerPoint 2007 で作成したスライド(拡張子が pptx)は, ダウンロードのときに拡張子が zip で表示されてしまうかもしれません. pptx に変更してダウンロードしてください.

序章:認知心理学とは何か

授業スライド(intro.pptx)

第1章:知覚の成立過程

授業スライド(chap1.pptx)

第2章:イメージの機能的性質

授業スライド(chap2.pptx)

第3章:記憶の貯蔵庫モデルと処理水準アプローチ

授業スライド(chap3.pptx)

第4章:想起のメカニズム

授業スライド(chap4.pptx)

記憶場面と再生場面の交互作用(interaction.jpg)

第5章:概念の構造

Bruner らの実験で使われた材料(Bruner.jpg)

第6章:文章理解と知識

授業スライド(chap6.pptx)

第7章:学習の多様性

授業スライド(chap7.pptx)

第9章:LISP による情報処理モデル

授業スライド(chap9.pptx)

ハノイの塔の解決に要する手数を計算する LISP 関数(hanoi.txt)

第10章:メタ認知の働き

授業スライド(chap10.pptx)

第11章:人間の論理的判断

授業スライド(chap11.pptx)

第12章:確からしさの判断

授業スライド(chap12.pptx)

第13章:問題解決

授業スライド(chap13.pptx)

第14章:コンピュータと教育

授業スライド(chap14.pptx)

第15章:社会的分散認知

授業スライド(chap15.pptx)

4.試験答案作成上の DOs and DON'Ts

よい試験答案を書くためには, 問われていることに対する十分な知識があることがまず必要です. しかしながら,問われている内容についての知識があるだけでは, よい答案は書くことができません. 答案の書き方そのものの技術が必要だからです. 推奨される書き方(DOs), してはいけない書き方(DON'Ts)を知っておきましょう. 答案の書き方は技術です.練習すれば身につけられます.

同じ大学の学生の中でも,文章作成技術にはかなりの個人差があります. この室蘭工業大学でもそうです. 就職や試験で同じ大学の学生に差がつくひとつの要因は, 文章作成技術にあるのかもしれません.

「です・ます」を使ってはいけない.「だ・である」を使う.

論述試験の答案は「です・ます」ではなく「だ・である」を使います. 認知心理学の試験に限らず,これはすべての論述試験に共通のルールです. 大学生ならこのルールは誰でも知っているだろうと思っていたのですが, どうもそうではないようです. 「です・ます」答案はかなりの数です. まれにですが,「です・ます」と「だ・である」が混在する人もいます. 論述答案は必ず「だ・である」で書いてください.

接続詞を安易に使用してはいけない.特に「また」の乱用に注意.

「また」「まず」といった接続詞を安易に使用する答案がかなりあります. 順接,逆接,並列といった接続詞の機能をよく考え, どうしても必要なところでのみ使用してください.

とりわけ安易に使用される接続詞は「また」です. 段落の始まりや,少し話が変わるときに, 文章の調子を整えるがごとく使用されます. 「また」は, その前に述べたことと並列させる必要があることを述べるときにだけ使用してください. 「また」は英語での also です. 論述の中で,わざわざ also と書かなければならないところはそれほど多くありません. 私の経験では,答案で使われる「また」のうち, ほとんどすべてが不要です. 「また」と書いてしまうのは,たいていは論述構成がうまくいっていないときです. 前に述べたことと次に述べることを論理的につなげられないので, それをごまかすために「また」と書いてしまったと感じられる答案が非常に多いのです. 「また」と書く前に,その前後での論述のつながりをよく考えてください.

「また」の他にも,接続詞の無駄な使用はいろいろあります. たとえば,「まず」です.「まず」と書き出すのなら, その時点で何かを順に述べる必要性が明確でなければなりません. 当然,「次に」のような接続詞によって, 実際の内容が順に記述されることになります. しかし,「まず」と書き出しているのに, 何を並べたいのかよくわからない答案が目につきます. 次に順序よく述べられるはずの内容がなく, 「まず」に続くものだけで終わっている答案も多くあります. 次の文は,2005年度の最終試験で, 2人の学生がそれぞれ答案の書き出しに用いた文です.

まず知覚は,自分が外界の刺激を受けて,それによって外界を認識することである.

まず心理学は大きく分けて臨床心理学と基礎心理学の2つに分けられる.

文はできるだけ短く.

文は可能な限り短くします. それ以上に分割したらあまりに不自然であるとか, 論旨の読解が難しくなるというところまで,文を短くしてください. 次に示すのは, 2006 年度の集中講義で実際に学生の1人が書いた答案から抜粋したものです. 内容的に少しおかしなところもいくつかありますが, それ以前に文として長すぎます.

認知科学とは認知心理学と同義の学問であり, 心理学の中では比較的新しい分野で20世紀中頃に確立し, それ以前に広がっていた科学的心理学を目指す行動主義心理学が変容した 新行動主義の立場がもととなっており, 生物,機械の知や,人間の知的側面について, 情報処理モデルに立って探求する科学である.

「自分はこんな文は書かない」と思った人も多いでしょう. 実際,あなたはそうかもしれません. しかし,このような文を書く人はかなりいます. 「自分は大丈夫」と思わず,文をもっと短くできないか, 常に検討を忘れないで下さい.

文の書き出し(主語)と終わり(述語)を対応させる

文の書き出し(主語)と終わり(述語) の対応が取れていない文を書く人が多くいます. 特に,長い文を書く人にその傾向があるようです. 次の例を見てください. 2006 年度の集中講義で実際に学生の1人が書いた答案から抜粋したものです.

ピアジェ学派は,幼児に対する実験的観察から, 同化と調節を繰り返して発達する認知的枠組みの概念である.

「学派は・・・概念である」では, 文の書き出しと終わりの対応が取れていません.

書き出しと終わりの対応がとれていない文の例をもうひとつ挙げます.

メタ認知の働きとは,人の話を理解していない自分に気づいたり, 自分の記憶能力の限界を把握して, それに対処するための行動をとることができるといったような時に, メタ認知が働いているといえる.

「メタ認知の働きとは・・・メタ認知が働いているといえる」 では,文の書き出しと終わりの対応が取れていません. この例文は,次に述べるように, 具体例だけで抽象的記述がないという点でも悪文です.

抽象的記述から具体的記述へ

ある事柄(主張や定義など)を述べるときに, 最初はそれを抽象的に記述します. そのあと,必要なだけ具体的な記述を続けます.段落単位では, 段落の書き出しの1文がその段落の抽象的な要約になっていることが理想です. 最初に具体例が来て, 最後にまとめが述べられるというスタイルはよくありません. そういうスタイルは,具体的な話を読んでいるときに, これからどのような話に流れていくのかわからないので,読み手を不安にさせます. どんな話の流れになるのか予想がつかないというのは, 小説ならいいのでしょうが,学術的な論述ではいけません.

用語の定義では,最初に抽象的な定義を述べ, それから具体例を挙げます. 用語を定義するときに,例だけを挙げた「・・・とは,たとえば・・・である」 という定義を行う人がいます.これはまったく定義になっていません. 具体例だけでは定義にならないからです. 定義と具体例はしっかりと分けて記述してください. 次の例文は, 2006 年度の集中講義で実際に学生の1人が書いた答案から抜粋したものです. 「スキーマ」の定義をしたいようなのですが, 例がひとつ挙げられているだけであり,一般的な定義がありません.

1つ目に,スキーマという知識がある. 「彼女は金髪の美人で目は青く口は大きめである」という文は, 私たちが読むと,それからさいころの目や袋の口ではなく, この女性の顔の一部である目と口であることがわかる. これがスキーマである.

目的語を忘れないこと

英語でいう「目的語」のない文が目につきます.英語など欧米の言語では, 他動詞には必ず目的語が必要であり,これに違反すれば明確に誤った文となります. しかし,日本語は文脈への依存性が高く, 目的語がない文がただちに誤りとならない (あるいは,誤りであると認識されにくい)ようです. それでも,よく読めば,こうした文は不完全であることがわかります. 以下の2つの文は,2005年度の最終試験で2人の学生が書いた文です. [ ] で示した位置に入るべき目的語が抜けています.

メタ認知の働きとは,上記のメタ認知をもとに[何に]修正を加えていくことである.

一方,長期記憶は[何に]とても有効である.